ネガティブ・ケイパビリティという言葉をご存知でしょうか。
未来が見通せない今の時代に必要不可欠な能力の一つ。
本記事では、ネガティブ・ケイパビリティについて解説します。
Contents
ネガティブ・ケイパビリティとは。
ネガティブ・ケイパビリティ(negative capability 負の能力もしくは陰性能力)とは、「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」をさします。
あるいは、「性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力」を意味します。
ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力 (朝日選書)
帚木蓬生 著より
もともと詩人のジョン・キーツが作った言葉で、それを精神科医ビオンが再発見し、論文の中で記述したことで、今のように知られることとなりました。
直面している問題に対して、性急に結論や結果を求めず、また諦めるわけでもなく、ただ、曖昧で不明瞭で、時に苦しさやしんどさがあるような状態に、希望を持ってステイし続ける心の筋力。
これがネガティブ・ケイパビリティです。
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ネガティブ・ケイパビリティの反対の力。ポジティブケイパビリティ。
ネガティブ・ケイパビリティをより深く理解するために、逆の力=ポジティブケイパビリティをご紹介しましょう。
ポジティブ・ケイパビリティとは、
才能や才覚、物事の処理能力。問題が生じた時に迅速かつ的確に問題を解決する能力。
いわゆる、「能力が高い」と表現されるときの「能力全般」のこと。
ネガティブ・ケイパビリティが混乱や曖昧さ、苦痛などの状況に佇む力とすると、ポジティブ・ケイパビリティは 問題をどんどん解決していく力。
現代の学校教育や社会で求められる力のほとんどはポジティブ・ケイパビリティと言えるでしょう。
ポジティブ・ケイパビリティ全盛の今の世の中。
私たちは、子供の頃「明確な回答」がある問題を解くことが勉強だと思い、教える側も教育だと思い、取り組んできました。
幼稚園から小学・中学、高校大学とこのような教育を受け続け、社会に出ていきます。
また、仕事においてもより早く、より正確な成果を求められます。
書店に行くと
「迅速に問題を解決し、スッキリしたい。」
「すぐに結果を出したい。」
といったニーズに応えようとするハウツー本が本棚に並んでいます。
今の世の中はポジティブ・ケイパビリティ全盛と言えるでしょう。
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ポジティブ・ケイパビリティの限界。
しかし、実際の人生や社会においては明確な答えや解決策が無いものがほとんどです。
進路や就職、仕事の悩みや様々な人間関係、恋愛や結婚、子育てに親の介護など、誰も絶対の答えはわかりません。
このような現実の答えのない問題・悩みに対してポジティブケイパビリティでは、
まるで沼の深いところにあるような問題の本当の根っこには到達できません。
仮に表面的な解決策でその場をしのげたとしても、また別の形で同じ問題が人生に起きることもしばしば。
また、本当に解決不能と思われるような問題に直面した時、心が折れてしまうこともあるでしょう。
もちろん、ポジティブ・ケイパビリティは生きていく上で大切な力なのですが、この力に偏ってしまうと、ほんとうの意味での問題の解決が得られなくなってしまうのです。
さらに、人間的な成熟や、寛容さを身に着けていくことが困難になるのです。
ネガティブ・ケイパビリティが人生に不可欠な理由。
ここでネガティブ・ケイパビリティ=答えのない事態に耐える力。混乱や苦悩に佇む力。の話に戻りましょう。
先の見えない時。解決策がまったくわからない時。
人生において必ず直面するこういったときこそ、諦めない気持ちとともに、宙ぶらりんの状態にとどまってみる。
そうすることで
つらい状況でも、比較的心健やかに過ごすことができたり。
すぐに解決しようと思っていた時には見えなかったものが見えてきたり。
時とともに状況も変化し、思ってもみなかった展開になったり。
その問題を本当の意味で解決する道筋が見えてきたり。
ポジティブ・ケイパビリティでは得られないものを得ることが可能になるのです。
また、詩人のキーツは、シェイクスピアは類まれなるネガティブ・ケイパビリティを有していた、と考えていました。
なぜなら、芸術といった創作活動には絶対の正解はありません。
答えのない状況に佇み続け、多くの人に感銘を与えるような深みのある作品を作り出す。
このようなプロセスにはネガティブ・ケイパビリティは欠かせません。
私たちの多くは芸術家を目指しているわけではありませんが、「答えのない自分の人生」という作品を創造している、という意味では我々全員がアーティストと言えます。
「答えのない中でよりよい人生を創造していく」という意味でも、ネガティブ・ケイパビリティは大切な力なのです。
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共感を支えるネガティブ・ケイパビリティ。
ここでネガティブ・ケイパビリティと大いに関連のある「共感」についても言及しておきましょう。
簡単に解決できないような状況・問題。
そういった状況に直面している人に対して、我々はつい「アドバイス」したり根拠のない「きっと大丈夫だよ」といった声をかけて相手に元気になってもらおうとします。
もちろんこれは善意からのものですし、こういった励ましをポジティブに受け取る人もいるでしょう。
ですが、この「相手に元気になってもらおうとする=ポジティブ・ケイパビリティに基づいた言動」は、相手に「そんな簡単なことじゃない」「わかってもらえていない」というインパクトを与え、逆に傷つけることにもなりうるのです。
本当に苦しい、困難な状況にいる人に出来るサポートは「思いやりを持って寄り添うこと」。
「それはつらいね。」
「どれだけしんどいことだろう。」
こういった「思いやりを持って寄り添い、共感する気持ち」が相手を大いに支える力になるのですが、この共感の力を支えるのがネガティブ・ケイパビリティです。
ネガティブ・ケイパビリティには、人を支える気持ち=共感を下支えするパワーがあるのです。
そしてこのことは自分自身にも適用できます。
あなた自身が困難な状況に直面したときも、自分に対して共感して苦しさや痛みとともにいる力は、人生の様々な局面であなたを大きく支えてくれることでしょう。
<参考記事>
ネガティブ・ケイパビリティを育むことは難しい。
しかし、ネガティブ・ケイパビリティを育むことはとても難しいこと。
私たちの脳や心は、わけのわからないものや、嫌なものに直面すると、落ち着かなくなります。
わからない・先が見えない状況はとても不愉快で、居心地が悪くなります。
ともかく性急に答えや結論を出したくなります。
これは私たちの脳と心の特性上とても自然なことであり、自然に任せたままではネガティブ・ケイパビリティは育まれないのです。
ネガティブ・ケイパビリティの育て方。
「じゃあ、どうすればネガティブ・ケイパビリティを育てられるんだろう。」
そんなふうに思いますよね。
この問いに対する、前述の著者、帚木蓬生さんの回答が本質を得ているので、そのまま抜粋します。
「どうすればこの能力を身につけられるんですか?」とよく聞かれますが、それ自体がマニュアル化に毒された考え方ですよね。この概念があると知り、頭のなかに入れて耐え続ける態度をもつだけで充分なんです。
まずは、概念を知ること。人生においてとても大切な力であることを理解すること。
その上で、困難な状況に直面した際に、まずは早々に結論を出そうとせずにその場に留まってみること。
また、難しい状況に直面している家族友人がいたら、その人に寄り添い、共感し「ただ寄り添おう」とすること。
こういったことの積み重ねで少しずつネガティブ・ケイパビリティを身に着けていきましょう。
そうすることで、困難な状況を少しずつ切り開いていけるようになるとともに、あなた自身が今よりも成熟した人間へと成長していくことでしょう。
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ここまで読んでくださった あなたに祝福の光が降り注ぎ、ますます輝く毎日になることを心から祈っています(。-人-。)
河野雅(こうのまさし)@輝くヒントでした。
<参考図書>